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紫色の月光

紫色の月光

第十四話「ジョーカー」

第十四話「ジョーカー」


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 上空何千メートルの位置にそれは存在していた。ビリオムが自分の目的の為に作り上げた巨大なメカドラゴンであるイビルドラゴン。
 それに対峙するのはR・J社の副社長こと全国のヴァリスの叔父さん『ヴェイダ』である。

(しかし……何処から攻撃するべきか)

 余談だが、イビルドラゴンの大きさは600メートル近くある。東京タワーよりも遥かに大きい。その分装甲も分厚いんだろうが、こんな巨大な物がよく空飛べる物だな、と素直に感心する物である。

「む!?」

 しかしその瞬間、イビルドラゴンのでかい口がゆっくりと開かれる。
 その口内に存在しているのは紛れもなく巨大な銃口であり、その銃口には光が集っていく。

(こちらを狙うのか。もしくは何処かの都市を狙うつもりなのか?)

 そこで、ヴェイダは気付いた。
 イビルドラゴンの銃口は微妙にこちらに向けられているようだが、実際には回避するには容易いくらいにズレていた。

 その理由を考えるのは容易い。

(こちらではなく先に何処かの町に攻撃を仕掛ける気だな!)

 ヴェイダは加速。
 標的が大きく、しかも攻撃標的しか見えていないだけに仕掛けるには容易かった。

「食らえ!」

 クローでのアッパーカットがイビルドラゴンの顎に炸裂する。喉元を抉りながらイビルドラゴンの顔の向きを上空に上げた瞬間、口内の強力なビーム砲が虚しく咆哮を上げた。

「むむ……! まるで花火じゃないか!」

 敢えて言うなら上に向けられるロケット花火だろうか。
 まるで噴水の如く溢れて行く光のビーム砲が、今はキレイな光の柱に見える。

「む!?」

 だが次の瞬間、抉ったはずの喉が急速なスピードで修復し始める。まるでビデオの巻き戻し映像を見ているかのような光景だった。

「―――――――!」

 イビルドラゴンの顔向きが一気にヴェイダに向けられる。
 それと同時、まだ口から放出されている野太いビーム砲が、まるで剣を振り下ろすかのようにしてヴェイダに命中した。


 ○


<メサイア基地Zブロック>


 キメラの液体の身体がビリオムを包み込んで行く。この光景は唖然とする物であったが、逆にいえば絶好の攻撃チャンスである。

「何時までも待っているお人よしだと思うなよ!」

 栄治の両手が突然燃えさかり、火球を作り出す。いわゆる『ファイヤーボール』だ。

「喰らえ!」

 突き出した掌から炎の弾丸が発射される。それは真っ直ぐビリオムに向かって飛んで行くが、

「無駄だ」

 ビリオムを包んだ鎧の様な鋼の肉体によって軽く弾かれる。

 以前、ジーンΧ等液体金属のジーンと戦った時、彼はその高い熱量で敵を溶かすという戦法を取り、辛うじて生き延びていた。
 しかし、この光景を見れば、今回はそれが役に立ちそうにないと言う事が理解できる。いかに栄治が自他共に認める馬鹿といっても、これくらい分る。

「それなら!」

 すると、今度は紫伝が両掌を翳してから叫んだ。
 その掌に、身も心も凍えてしまいそうなほどの冷気が溜まって行くのが皮膚で感じられる。

「ダイヤモンドダスト!」

 それらしい技名が叫ばれると同時、ダイヤモンドダストの冷気がビリオムに襲い掛かる。先ずは先頭の氷の塊がビリオムの頭部に直撃し、その後次々と氷の塊と冷気がビリオムに襲い掛かっていった。

「うわわわ……!」

 横にいるヴァリス達ですら思わず肩で震え始める始末である。ワクチン投与されて未だに眠っているリオンにイグルはマーティオに付けられた傷口が凍り始めていき、RMAになったサルファーに限っては頭部が凍り始めている。

「し、シデン殿!? 出来ればもう少し抑えて欲しいのであるが……!?」

「うん、無理!」

 即答されてしまった。
 
「完全に奴を凍らせて……その後二度と再生できないように木っ端微塵にする!」

 可愛い顔してやることがえげつないとは正にこのことである。
 しかし、逆にいえばそれだけの脅威なのだといえる。ジーンΧ相手にしてパンチ一発で負けてしまった紫伝なのだから尚更そう思うだろう。

 しかし次の瞬間、その冷気の渦から何かがこちらに向かって来る。

「!?」

 恐ろしい事に、肉眼ではっきりとその影を捉えることが出来る。
 その影の正体は、遂にキメラによって全身を覆われたビリオムである。しかもシャボン玉の様なバリアに包まれて、冷気を防ぎながらこちらに突撃してくるではないか。

「―――――やばい!」

 しかし、既に手遅れだった。
 防御体制に入る寸前、ビリオムがバリアを張りながら彼等に突撃したのである。その攻撃力の高さは、その瞬間に響いた轟音とメサイア基地崩壊の音が示していた。


 ○


<メサイア基地>


 レーザーナイフをライに向けて振りかざそうとした瞬間、シャロンは基地全体が揺れているのを感じた。それを感じて思わず攻撃の手を止めてしまうのだが、その隙をライは逃さなかった。

「!」

 その一瞬だけで、ライはシャロンの腹部に強力な蹴りを叩き込む。
 それを受けたシャロンは思わず悶絶。いかに強力な再生能力の保持者とはいえ、痛い物は痛いのである。

「――――!?」

 そしてその瞬間、彼等が立っている空間が轟音を響かせながら崩れ落ちて行く。次々と降り注いでくる瓦礫の大雪崩を何とかして回避しないとこちらの身が持たないだろう。

「く――――!?」

 どうにかして脱出しようと思うが、出口が瓦礫で埋もれ、しかも上から無数の瓦礫が降り注いでくる中、彼等に脱出の手段は無かった。
 

 ○


<メサイア基地 跡地>


「いっ――――つ」

 身体中に響いてくる痛みで思わずリオンが起き上がる。

「此処は……?」

 確か、自分はあのキメラとかいうわけの分らないバケモノと戦って……それから先の記憶が無い。しかし、何か今まで悪夢を見せられたかのような、そんな禍々しい感じがする。

 しかし、かと言って開放的な気分にもなれない。その理由は彼の周囲の光景の酷さにあった。
 見るからに広がる瓦礫の山、崩壊の跡地なのだと言う事が嫌でも分るその光景は見ていて心地いいものではない。

「!?」

 しかし、次の瞬間。彼の目はとんでもない物を目撃した。
 それはまるで悪魔の様な異形を模した人型の影である。それが自分のメモリーの中に残るキメラの姿と一致する事から、リオンは思わず手元にあったレーザーソードの柄を握っていた。

「……!」

 だが、よく見ると、キメラはその右手で一人の少女の様な顔立ちの首を握り締めていた。先ほどの攻撃で一番ダメージを受けた紫伝の首を、力強く握り締めているのである。

「このまま握りつぶしてあげようか?」

 首を握っている右手に更に力が篭るのが分る。それを感じると同時、紫伝は首に激しい痛みを感じ、今まで味わった事の無いような苦しさを覚えた。

「でえええええええええええええええい!!」

 すると、背後から凄まじい殺気と共に何かが襲い掛かってきた。炎の剣を作り出し、それで切りかかろうとする栄治である。

「そんな炎じゃあ、ジーンΔを溶かせても今の私は溶かせないよ」

 炎の剣を左腕でガード。
 硬い物同士がぶつかる金属音がその場に響きながらも、栄治は驚愕の表情に襲われる。

「そら、こいつを喰らえ!」

 右手で掴んだ紫伝を栄治に叩き付け、そのまま二人に衝撃波を浴びせる。
 まるで台風にでもぶっ飛ばされているかのような感覚に襲われつつも、二人は長距離にわたって吹き飛ばされた。

「ちぃ!」

 状況が飲み込めないが、あのキメラがいるのなら間違いなく敵である。そう判断したリオンはレーザーでビリオムに切りかかるが、

「……下がって!」

 不意に、後ろから声をかけられた。
 何事かと思い立ち止まると、一本の矢が彼を通過してビリオムに襲い掛かった。

「噂の古代最終兵器リーサルウェポンか!」

 矢を放ったネオンが再び矢を射る。
 しかし、知恵だけではなく、『力の詰まった鎧』であるキメラを装着した今のビリオムはそんな物を恐れはしなかった。

「確かにそれは邪神を封じる際に利用した超兵器。だが、今の私の敵ではない!」

 手を突き出し、念じるようにしてビリオムが何か呟き始める。
 それと同時、ビリオムに向かって行く矢が方向転換を始めた。その先にいるのはリオンである。

「く!」

 しかしリオンは抜群の反射神経でこれを回避。直線的に向かって来る矢なのだから回避は容易い。……はずだった。

「――――が!」

 しかし次の瞬間、突然矢が方向転換をし始め、リオンの背中に突き刺さる。しかもスピードが先ほどよりも爆発的に上がっている。

「……く!」

 ネオンが思わず舌打ちをすると、彼女の前にビリオムが立ちはだかった。どうやら通常の移動スピードも洒落にならないレベルらしい。

「悪いが、私は見た目が少女でも敵と判別したら思いっきり――――」

 その瞬間、ビリオムの顔が不気味に歪む。まるで悪魔の微笑みのように。

「殴るタイプでね」

 ネオンの小さい体の中心にビリオムのパンチが突き刺さる。
 その可愛らしい顔が苦悶の表情に歪むと同時、彼女は口内から込み上げてくる赤い液体を堪えきれずに吐き出した。

「ははははは! 素晴らしい、最終兵器と融合した人間が相手でも一撃でねじ伏せる事が出来る!」

 ビリオムの笑いがメサイア基地跡地に響くと同時、彼の背後から轟音が響く。
 何事かと思い振り返ると、其処には巨大な機動兵器、フェイザリオンが存在していた。なるほど、先ほどから見かけないと思ったら合体変形していた訳か。

「でええええええええええええええい!!!」

 フェイザリオンの剣がビリオムに襲い掛かる。
 今の彼はフェイザリオンと比べると正にアリと恐竜。比較になりはしない。しかしそれはあくまで「大きさ」の話である。

「ふん」

 きん、という金属音と共に、ビリオムの二つの指が巨大すぎるフェイザリオンの剣を摘んでいた。しかも当の本人は恐ろしく静かな表情をして、だ。

「デカけりゃ良いってものじゃないんだね」

 イビルドラゴンを作り出した張本人が言うのも説得力が無いが、今のビリオムはそれを正に実感していた。

「く……! ん!」

 フェイザリオンがブースターを利用して一気にぶった切ろうと試みるが、ビリオムは涼しい顔でそれを力で『打ち負かした』。

「そら!」

 ビリオムが指に力を入れると同時、フェイザリオンの剣にひびが入り始める。それは次第に広がっていき、最終的には脆くも崩れ去っていった。

「え――――――?」

 信じられない、とでも言いたそうなフェイザリオンの言葉に満足したビリオムは、そのまま笑みを浮かべながら浮遊。

「さて、こちらの一撃が巨体の君をどれだけぶっ飛ばせるかな!?」

 きゅいん、という風を切る音が響いた。
 それと同時、竜巻の様な回し蹴りがフェイザリオンに炸裂する。

(そんな! 大きさは生身でしかないのに……それなのに!)

 破壊力が洒落にならないレベルだ。恐るべきはキメラの鎧。ただの人間を此処までパワーアップさせるとは相当な物だ。

「さて、後は……!?」

 何かの影が自分を覆うのに気付いたビリオムは、はっと振り向く。
 すると、今度はサルファーが巨大な剣を持って切りかかってきていた。

「今の光景が見えていなかったのかな?」

 ビリオムはフェイザリオンの時のようにサルファーの剣を掴む。その何事も無かったかのような涼しい顔が非常にムカツク訳だが、その腕力はやはり洒落にならないレベルだった。

「く!」

 やはり押そうとしても引こうとしてもビクともしない。RMAであるサルファーや合体しているフェイザリオンの剣を掴み、しかもビクともさせないとは考えるだけでも恐ろしい物だ。普通なら避けるだろう。

 だが、次の瞬間。
 サルファーの巨体の影に隠れてリオンがレーザーを向けて突撃してきた。背中に矢が突き刺さっている状態だが、痛みを堪えながらも突撃してきたのである。

「む!?」

 ビリオムがその存在に気付くが、今までロクな戦闘をしたことがない彼はその奇襲に対応しきれない。
 
「喰らえ!」

 一閃。
 
 その瞬間、ビリオムの首が刎ねられた。


 ○


<メサイア基地 跡地>


「あははははははは! 瓦礫の中に飲み込まれた時にはどうした物かと思ったけど、よく考えたら私は死なないんじゃないか!」

 狂った笑いが場に木霊す。
 瓦礫の山の中にはボロボロの格好でシャロンが立っていた。瓦礫の中に飲み込まれた時のダメージは大きかったらしく、腕の皮膚を突き破った鉄の塊が妙に痛々しい光景だった。

「く―――!」

 そしてそんな中、ライはシャロンに踏みつけられていた。彼はなんとか瓦礫の中から逃れた物の、後からやって来たシャロンのレーザーによって足を負傷しているのである。足をまるごと持っていかれなかっただけマシだが、それでも立ち上がるには力が入らない。

(くそ!)

 シャロンがこちらに向けてレーザーを振り下ろそうとする場面が見られる。このままいけば顔面貫通どころじゃすまないだろう。

 思わず目を閉じる。

 ―――――が、どういうわけか何時まで経っても振り下ろしてこない。それどころか苦悶の声すら聞こえてくる。

「あ、あ……そ、そんな馬鹿な! なんで―――――なんで!」

 何事かと思い上を向き、目を開けてみると其処には恐るべき光景があった。
 シャロンの手が黒く滲んで行き、しかも砂のように崩れ去って行くのである。いや、手だけではなく、足、顔、胴体と次々と崩れて行くのである。

「私は不死者なんだ! それなのに――――こんな事は!」

 そのシャロンの叫びに答えるかのようにして、何処からか音楽が響いてきた。何処かで聞いた事があるようで聞いた事がなく、そして妙に心に突き刺さるオカリナの音色。

「お前は……!」

 音がする方向には一人の男が居た。前髪は黒で、残りは青髪の青年。何事もないかのようにオカリナを吹いており、何処か神秘的なオーラを纏っていた。

「誰なんだ、お前は!?」

 崩れて行くシャロンが言うと、男は静かに目を見開いて、呟いた。

「………ジョーカー。俺は神鷹・快斗であり、マーティオ・S・ベルセリオンであり、ゼッペル・アウルノートである」

「何を訳のわからない事を!」

 しかし言われてみればジョーカーの面影には何処か見覚えがあった。何となく、何となくだが彼からはそんなオーラが発せられていた。

「シャロン、貴様は何度殺しても生きている。確かにお前は不死なんだろうな」

 だが、とジョーカーは言う。

「そんなお前が死ねばそれは―――――1種の矛盾だな」


 矛盾。


 本来ならありえないと言う事を意味するその言葉が、妙に重く感じられた。
 その瞬間、シャロンが弾ける様にして砂になっていった。断末魔の叫びが、途中で途切れて行く。

「い、今のは………」

 ライは唖然とした顔でジョーカーを見る。
 別にこの男はシャロンに何かしたわけではない。ただ言葉を投げかけただけだ。そしてオカリナを奏でた。それだけである。

「お前は一体……誰なんだ?」

「俺の名はジョーカー。神鷹・快斗であり、マーティオ・S・ベルセリオンであり、ゼッペル・アウルノートであり、この三人ではない。――――全ての矛盾は我にあり!」




第十五話「オレンジの恨み」


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